染みだらけの彼の背中を、私はなめる。腹の皺の間に、汗で湿った脇に、足の裏に、舌を這わせる。私の仕える肉体は醜ければ醜いほどいい。乱暴に操られるただの肉の塊となった時、ようやくその奥から純粋な快感がしみ出してくる…。少女と老人が共有したのは滑稽で淫靡な暗闇の密室そのものだった―芥川賞作家が描く究極のエロティシズム。
ホテル・アイリスで働く17歳のマリと、変人と噂されるロシア語翻訳家の老人の恋の話。
上の引用部分だけで強烈な印象。
「博士の愛した数式」から読み始め、既に何冊か小川洋子の本を読みましたが、こんなにもエロティックなものは初めてでした。
そして「博士の愛した数式」は、なんて読みやすい本だったのかと再確認。
読みやすいというか、小川洋子の入門本という感じ。
初老の男のくすんだ皮膚・貧弱な肉付き・たるんだ脂肪や、マリに施された傷・縛った痕などが、生々しい。
静かで緩やかな時間の流れで少女と老人が愛し合う、とても濃い空間。
一般的に綺麗とは言えない様なことを、綺麗と思わせる描写で書かれているのはさすが小川洋子。
- ホテル・アイリス
- 発売元: 幻冬舎
- 価格: ¥ 520
- 発売日: 1998/08
- 売上ランキング: 129781
- おすすめ度
★7/10
大まかに見るとすごくエロティックだけど、小川洋子が描くとそういうのは微塵も感じさせず、且つ芸術的になるというか。
決して、“汚いもの”にならないところが、すごいです。
sakuさんはこの本が初めてだったんだ。
私はありがちすぎる「博士の愛した数式」がお初でした(笑)
そうそう。
普通、あまり綺麗とは思えない物事を、不思議と芸術的に感じさせてくれますよね。
シワ・たるみ・染み・汗とかでもそうなんだから。