2007年12月10日

「神様」川上弘美

ドゥマゴ文学賞、紫式部文学賞受賞。
九つの物語の短編集。

くま、河童、人魚などが出てくるのでおとぎ話のようだけれど、そうではないテンションと雰囲気は川上弘美ならでは。
主人公「わたし」も、周りの人も、出来事も、不思議なのに日常に上手く溶け込んでいる。
川上弘美作品の登場人物はいつも、穏やかで暖かい。
こんな風に生きていくのって良いな・・・。
暖かな気持ちにもなり、切なくもなる一冊。

目次

神様 / 夏休み / 花野 / 河童玉 / クリスマス
星の光は昔の光 / 春立つ / 離さない / 草上の昼食

神様 (中公文庫)
神様 (中公文庫)
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 480
  • 発売日: 2001/10
  • 売上ランキング: 5244
  • おすすめ度 4.0

★8/10
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2007年11月30日

「秘密」東野圭吾

第52回日本推理作家協会賞、受賞。
映画化されています。
「秘密」

妻と小学五年生を乗せたバスが崖から転落。妻の葬儀の夜、意識を取り戻した娘の体に宿っていたのは、死んだ筈の妻だった──。

なんとなくストーリーに覚えがあったので映画を観たのかな?と思ったのですが、ラストまで読んでみたら思い違いのようです。
題名の「秘密」というのは、娘の身体に妻の意識があることを周りの人間には「秘密」にするという、普通に想像のできる範囲で思い描いていました。
一気に読み進められる話の展開も面白いけれど、ラストでの本当の意味の「秘密」には驚かされました。
こんなことって・・・切ない。
でも考え抜いた結果、こうする他には無いのだろうと納得するしかないような結末。

秘密 (文春文庫)
秘密 (文春文庫)
  • 発売元: 文藝春秋
  • 価格: ¥ 660
  • 発売日: 2001/05
  • 売上ランキング: 603
  • おすすめ度 4.0

★9/10
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2007年11月14日

「黄色い目の魚」佐藤多佳子

家族や周囲と溶け合うのが苦手だが、イラストレーターの叔父だけに心を許している中学一年の村田みのり。
限界を見たくなくてマジになるのがこわい、絵を描くのが好きな小学五年の木島悟。
それぞれの話から始まり、高校生で二人は同級生として出会う。
悟はみのりのデッサンを書き続ける。

「あぁ、青春て・・・」なんて思うのは歳をとったせいなのか。
サッカーでマジになってみたり、叔父から卒業してみたり、思春期を迷いながらも進んでいく二人。
悟に描かれるみのり、みのりを描く悟、二人の想いがなんとも良い。さわやかで切ない。
章ごとに二人の想いが交差して、どちらの気持ちも読めるという読者ならではの特権を手にしたかのような気分。
どちらにも共感してしまい、胸が締め付けられました。
永い永い、遠い未来の約束。
くぅーーっ!やられました。

黄色い目の魚 (新潮文庫)
黄色い目の魚 (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 660
  • 発売日: 2005/10
  • 売上ランキング: 12364
  • おすすめ度 4.5

★8/10
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2007年11月04日

「物語が、始まる」川上弘美

いつもの暮らしのそこここに、ひっそり開いた異世界への扉
四つの幻想譚。

やっぱりこの人の文章、好きだな。
古風なのに斬新で、あたたかい。
4つの短編集で、芥川賞候補になった「婆」も収録されています。

「物語が、始まる」
ある日、男の雛型を拾う。
ゆき子と雛型三郎の不思議なラブストーリー。

「トカゲ」
幸せの座敷トカゲなるものを貰う。
何故かどんどん大きくなり、最後は・・・。

「婆」
婆に呼ばれて家に入ったら、穴があった。

「墓を探す」
祖先の墓を姉と探す。

不思議な世界観で、強く訴えられているわけではないのに何かが伝わってくる文章。
深く考えようとすると、迷い込んでしまうような文章。
どう思ったかとか、具体的に言葉で表すのは難しい。
それでも必ず何かを伝えてくれている気がします。

物語が、始まる (中公文庫)
物語が、始まる (中公文庫)
  • 発売元: 中央公論新社
  • 価格: ¥ 580
  • 発売日: 1999/09
  • 売上ランキング: 157156
  • おすすめ度 4.0

★8/10
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2007年10月27日

「いじめの時間」

「いじめられる子」と「いじめる子」。ふたりの間に横たわるのは、暗くて深い心の闇。
「いじめ」をテーマに描かれた7人の作家による入魂の短篇集。

江国 香織、大岡 玲、角田 光代、野中 柊
湯本 香樹実、柳 美里、稲葉 真弓

世の中には様々ないじめがある。
しかし、根本にある何かは同じなのかもしれない。

いじめをテーマにしているだけに、重い。
何が原因なのか、どうすればいじめは無くなるのか、答えは出ない。
それでも知っておきたいことや、知らなければならないことがある。
子供だけでなく、大人社会にもいじめはあるし、社会全体の責任だから。
被害者、加害者と簡単に分けられるものではないのだ。

いじめの時間 (新潮文庫)
いじめの時間 (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 460
  • 発売日: 2005/03
  • 売上ランキング: 102444
  • おすすめ度 4.5

★8/10
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2007年10月23日

「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊

チーム・バチスタの栄光の続編。
前作が面白かったから、やっと読めて満足しています。

小児科病棟に勤務する小夜の担当は、眼球に発生する癌網膜芽腫(レティノブラストーマ)の子供たち。子供たちのメンタルサポートを不定愁訴外来・田口公平に依頼する。そんななか、患者の父親が殺害される。緊急入院した伝説の歌手との出会いもあり、事件は思いもよらない展開に。

前作ほどの強烈さが無い事と少しだけ強引な展開がありますが、面白かったです。
田口と白鳥のコンビは前作同様だし、加納という警視正も登場し、これまたキャラが濃い。
歌手冴子とマネージャー城崎の特殊な能力で起こる現象も興味深いし、レティノ患者の瑞人とアツシ、白血病の由紀、猫田師長、藤原看護師などの登場人物も良い。
小児科が舞台で子供の患者が出てくるのは胸が痛くなるけれど、実際の医者が書いているだけある病院の実態なども面白い。

ナイチンゲールの沈黙
ナイチンゲールの沈黙
  • 発売元: 宝島社
  • 価格: ¥ 1,680
  • 発売日: 2006/10/06
  • 売上ランキング: 3373
  • おすすめ度 3.0

★8/10
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2007年10月15日

「ぶらんこ乗り」いしいしんじ

いしいしんじさんの本は、話題になっているのに最後まで読めたのはこの本が初めてです。
というのは「麦ふみクーツェ」という本が途中で止まっているから。
両方に共通するのが、文中ひらがなが多いので、慣れるまでは読みにくいのがあるのかなと思います。
なんとなく「今ならいけそう」と思い、読んでみました。

とても頭がよく、ぶらんこと指を鳴らすのが得意で、つくり話の天才である「私」の弟。
残された古いノートを読み返してみると、今なら分かる真実の数々。

こういうことだったのかと納得です。
みんながいしいしんじの虜になるのが分かりました。
物語の文章一つ一つがとても丁寧で、あたたかい。
はじめは「いくら天才でも弟が書く文章が上手すぎる」と思っていましたが、そんなリアリティを求めている話ではないことが読み進めていくと分かってきました。
(それでも文中のつくり話のうち2つは、作者が実際に4歳児に作ったものというのが凄い。)
あちら側とこちら側、心の引力。
じんわりと泣けて、読み終わった後は少し笑顔になれる本でした。

ぶらんこ乗り (新潮文庫)
ぶらんこ乗り (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 500
  • 発売日: 2004/07
  • 売上ランキング: 14067
  • おすすめ度 4.5

★9/10
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2007年10月02日

「お引越し」ひこ田中

この本は作者の名前買いです。なんだか珍しくて。
今日とうさんがお引越しをした。今度、お家が2つになります。
児童文学ですが、大人も楽しめるというか、大人が読んだほうが良さそうな本でした。
11歳の女の子レンコの目線で、両親が別れることが書かれている。
読んでいると、レンコの両親は二人とも、娘への対応は普通の一般的なこういう場合と同じかそれ以上だと思う。
父親とはいつ会いに行ってもよいし、養育費もきちんと払うし、母親もレンコとこれからのことをきちんと話し合っているし。
元気で明るいレンコはなんでもなさそうにしているけれど、それでもやっぱり心の中はさみしいし悲しい。
両親の後輩の布引くん、ワコさん、ミノルなど、登場人物も良い。

お引越し (講談社文庫)
  • 発売元: 講談社
  • 発売日: 1995/03
  • 売上ランキング: 508850

★6/10
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2007年09月17日

「ラッシュライフ」伊坂幸太郎

泥棒を生業とする男は新たなカモを物色する。父に自殺された青年は神に憧れる。女性カウンセラーは不倫相手との再婚を企む。職を失い家族に見捨てられた男は野良犬を拾う。幕間には歩くバラバラ死体登場――。並走する四つの物語、交錯する十以上の人生、その果てに待つ意外な未来。不思議な人物、機知に富む会話、先の読めない展開。巧緻な騙し絵のごとき現代の寓話の幕が、今あがる。

泥棒を生業とする黒澤、新進画家の志奈子、新興宗教の教祖に惹かれている画家志望の河原崎と指導役の塚本、それぞれの配偶者を殺そうとしている精神科医の京子とサッカー選手の青山、失業者の豊田。
5つの話は同じ場所で同じものを見て、5つの視点からそれぞれの話が始まり、それらが複雑に関連してくる。

伊坂作品は「多作品の登場人物などがリンクされている」と聞いていたけれど、私がこれまでに読んだのは2作品。3作品目のこの本で、知っている名前などがちらほら出てきました。こういうことなんですね。
バラバラの話がバラバラの時間の流れで出てくるので、それぞれの話が絡んできた時、その絡みを理解するのに時間がかかりました。前のページに戻ったりして読み返すことも。
こういう話を書くのって、純粋に凄いなと思います。
謎として分からなかった部分が、読みながら次々と紐解かれていくのは読んでいて気持ちがよいですね。
文中何度も出てくるそれぞれの主人公が目にするエッシャー展の垂れ幕。兵士が同じ階段をぐるぐると登り続ける(降り続ける)。この話の話の流れを上手く表現しているかのような騙し絵で印象的。

ラッシュライフ (新潮文庫)
ラッシュライフ (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 660
  • 発売日: 2005/04
  • 売上ランキング: 410
  • おすすめ度 4.0

★7/10
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2007年09月03日

「神様からひと言」荻原浩

大手広告代理店を辞め、「珠川食品」に再就職した佐倉凉平。入社早々、販売会議でトラブルを起こし、リストラ要員収容所と恐れられる「お客様相談室」へ異動となった。クレーム処理に奔走する凉平。実は、プライベートでも半年前に女に逃げられていた。ハードな日々を生きる彼の奮闘を、神様は見てくれているやいなや…。サラリーマンに元気をくれる傑作長編小説。

タイトルと表紙の印象で、勝手ながら全然違う話を想像していました。
(そのまま「神様」と思っていました)
いや、でも荻原浩だったんだなと読み始めてすぐに思い出した。
クレーム処理っていうのは、物凄くストレスの溜まる仕事だというのは簡単に想像できるけれども、こんな人からこんな理由で電話がかかってくるのかと驚くようなクレームがわさわさと出てきて、佐倉と上司の篠崎が痛快に処理していくのが面白いです。
こんな理由でも電話しているのだったら、昔お菓子に長い髪の毛(!)が入っていた時、私も電話すればよかったな、なんて全然関係ないことを思いながら読んでいました。
「オロロ畑でつかまえて」「なかよし小鳩組」で出てくるユニバーサル広告社もチラリと出てきたのは、なんだか嬉しかったです。

神様からひと言 (光文社文庫)
神様からひと言 (光文社文庫)
  • 発売元: 光文社
  • 価格: ¥ 720
  • 発売日: 2005/03/10
  • 売上ランキング: 45907
  • おすすめ度 4.0

★8/10
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2007年08月19日

「椿山課長の七日間」浅田次郎

朝日新聞夕刊連載作品。
映画化もされています。
映画公式ページ

働き盛りの46歳で突然死した椿山和昭は、家族に別れを告げるために、七日間だけ“現世”に舞い戻る。
現世と来世の中間にある「スピリッツ・アライバル・センター」にて、ほとんどの人が「反省ボタン」を押せば「極楽往生」できるという。
それなのに椿山は納得が出来ずに、現世に戻ることにしてしまう。
必要なものが何でも出てくる「よみがえりキット」を持たされて、現世の自分とはもっとも対照的な姿になって3日間を過ごせるのだ。
しかし、制限時間の厳守、復讐の禁止、正体の秘匿を守らないと、こわいことになる。
現世に戻り、家族、仕事、女性問題の悔いを残さないで戻れるか。
自己表現できない女は損よ。
自己主張は必要ないけれど、自己表現はしなくちゃだめ。

面白かったです。
久しぶりの浅田次郎で、「鉄道員(ぽっぽや)」のイメージが強かったのですが、こんなに面白いとは。
椿山課長、やくざの武田、7歳の雄ちゃん、3人とも現世に戻るけれど、みんな周りの人達に慕われていて、死を心から悲しんでいる人がいっぱい居るところでじーんときました。
3日間をフルに活用して、それぞれ成仏できない理由を解決しようとするのが面白く、どんどん進みます。
椿山の父の嘘や、武田の正義や、雄ちゃんの頭の良さにホロリ。
「死後の世界」のイメージが変わるほど、笑い、感動しました。

椿山課長の七日間 (朝日文庫)
椿山課長の七日間 (朝日文庫)
  • 発売元: 朝日新聞社
  • 価格: ¥ 630
  • 発売日: 2005/09/15
  • 売上ランキング: 7192
  • おすすめ度 4.5

★9/10
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2007年08月15日

「ぎりぎりの女たち」真野朋子

結婚、出産、更年期etc.ぎりぎりのタイムリミットを迎えた7人の女たちの、切実な闘いを描いた勇気が出る小説集

まったく・・・。
タイトル買いしてしまいましたよ。
買わずにはいられない、このタイトル(笑)
7つの短編集。

読んでいて思ったのが、女性ファッション雑誌に掲載されている小説みたいだということ。
女性ならではの気になる様々なタイムリミットが書かれています。
自分と同じ感覚だったり、そこまでするほど切羽詰っているのかと思ったり。
切実だからこそ、必死になってしまうのも分かりますが「痛い」女性も出てきたりします。
これだから女性ってイヤだなぁ・・・と思いながら、読んでしまいました。

ぎりぎりの女たち (幻冬舎文庫)
ぎりぎりの女たち (幻冬舎文庫)
  • 発売元: 幻冬舎
  • 価格: ¥ 520
  • 発売日: 2000/06
  • 売上ランキング: 395904
  • おすすめ度 3.0

★6/10
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2007年08月08日

「優しい音楽」瀬尾まいこ

「優しい音楽」「タイムラグ」「がらくた効果」の3編を収録。

「優しい音楽」
タケルは千波ちゃんと付き合っているが、何かがしっくり来ない。
そして、親に挨拶をしたいのに、なかなか家に入れてくれない。
どうしようもない事を抱えた家族は、僕をちゃんと見てくれているのか。
「タイムラグ」
恋人の平太の奥さんの子供を預かることになってしまう。
深雪と佐菜ちゃんの話。
「がらくた効果」
はな子と同棲している章太郎は、はな子のガラクタ集めに辟易している。
何でも持って帰ってくるはな子は、佐々木さんを持って帰ってきてしまう。
佐々木さんとの3人の生活が始まる。

とても読みやすい本でした。
しかし、読みやす過ぎて勿体無い感じもします。
もっともっとじっくり味わいたいと思う瞬間に、話が終わってしまう。
優しさから生まれる出来事って、良いものですね。

優しい音楽
優しい音楽
  • 発売元: 双葉社
  • 価格: ¥ 1,260
  • 発売日: 2005/04
  • 売上ランキング: 120415
  • おすすめ度 4.5

★8/10
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2007年08月05日

「嫌われ松子の一生」山田宗樹

映画化、ドラマ化され、観た方も多いでしょう。
しかし公式ページを見てみると、やはり原作のイメージとは結構違う気がします。
どちらも私は観ていないので、なんとも言えませんが。
映画公式ページ
ドラマ公式ページ

川尻松子の転落人生。
中学教師だった松子は、ある事件で馘首され故郷から失踪するのをはじめとし、どんどん転落していく。
教師、ソープ嬢、美容師、それぞれで男性を惹きつけ、人生を乱されてしまう。
松子が殺され、今まで松子の存在すら知らなかった甥の笙が松子の一生を追いかける。

これでもか、これでもか、と信じられない程に転落していく松子。
それでも何か人を惹き付ける魅力と松子自身の努力で、その都度頑張りを見せる。
たった一つの出来事からこれほどまでに人生が変わるのか。
たとえそれが、きっかけに過ぎなくても。
笙が松子の一生を追いかけることが無ければ、松子の一生は誰にも知られなかっただろう。
私は松子に対して好感を持てたので、これほどの苦境の中で生きていく姿には応援したくなりました。
ただ、笙の恋人の明日香は、追いかけるきっかけを作った役割は大きいけれど、最後の役割の必要性はあまり感じられなかったな。
こんなにも波乱万丈の人生。
壮絶な人生を目の当たりにして、私の人生はなんて穏やかなのだろうかと比べてしまいましたが、とても読みやすくてすらすらと読んでしまいました。

嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)
嫌われ松子の一生 (上) (幻冬舎文庫)
  • 発売元: 幻冬舎
  • 価格: ¥ 600
  • 発売日: 2004/08
  • 売上ランキング: 116324
  • おすすめ度 3.5

嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)
嫌われ松子の一生 (下) (幻冬舎文庫)
  • 発売元: 幻冬舎
  • 価格: ¥ 630
  • 発売日: 2004/08
  • 売上ランキング: 155144
  • おすすめ度 3.5

★8/10
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2007年07月26日

「太陽の塔」森見登美彦

日本ファンタジーノベル大賞受賞。

華のない大学生活だが、たった一度だけ水尾さんという恋人が出来る。
クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走。

初の森見登美彦です。
凄く話題になっているので読みたくて期待をしていたのですが、なんだか難しい本でした。
いえ、難しい話ではなくおバカな話なのですが、読み終えるのにとても時間がかかりました。
おそらく真面目に読んではイケナイ本です。
でも文体が一見大真面目なので、それに(言葉が悪いけれど)騙されてしまい、意味を良く考えるとくだらないことが書いてある感じ。
京都の町並みや、男くさい学生生活や、若い男性の妄想や、書いてあることは非常に面白いのです。
しかし、実際の出来事と、妄想している頭の中の出来事がごっちゃになってしまいます。
しばらく読んで「あぁ、今のは妄想だったのか」と気がつく始末。
この人の本は、みんなこうなのかしら…。
評判はかなり良いので、好き嫌いに分かれるのかも。

太陽の塔 (新潮文庫)
太陽の塔 (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 420
  • 発売日: 2006/05
  • 売上ランキング: 3043
  • おすすめ度 4.0

★6/10
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2007年07月23日

「まどろむ夜のUFO」角田光代

野間文芸新人賞受賞。

私、弟のタカシ、弟の友人の恭一、同級生のサダカくん。
タカシは彼女にジャムを作り、恭一は魂の前世を信じ、サダカくんは5日ごとにデートをする。
みんなどこか普通ではない。

正常と異常の境目があるとしたら、自分では気がつかないうちに踏み入れてしまうのは、こういう感じなのだろうか。
どうも普通ではない考え方や行動が、淡々と、日常の中に同居している。
角田光代の初期作で、彼女の特徴の一つである、意味のなさそうな細かい描写がいくつも続くなか、自然におかしな事も含まれている文章が、どんどん先を読ませます。
そんなこともあるのかな、という感じに共感してしまい、でもこんなのおかしいよな、とも思ってしまう。
今の部分って普通じゃないよね?と誰かに確かめたくなるような。

表題作のほかに「もう一つの扉」「ギャングの夜」も収録。

まどろむ夜のUFO (講談社文庫)
まどろむ夜のUFO (講談社文庫)
  • 発売元: 講談社
  • 価格: ¥ 580
  • 発売日: 2004/01
  • 売上ランキング: 370842
  • おすすめ度 3.5

★6/10
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2007年07月17日

「ナラタージュ」島本理生

主人公の泉は大学二年、高校時代に片思いし続けていた葉山先生と再会する。
演劇部の現役高校生達とOB・OG、顧問の葉山先生で稽古に励む。
きっと、子供だったから愛とは違うとかじゃなくて、子供だったから、愛してるってことに気付かなかったんだよ。

コテコテの恋愛小説。
高校生からの片思いで、大学生になっても、そしてプロローグにもある結婚間近になっても、これからもきっとずっと忘れられない。
何も貰わなくても良い、与えるだけで満足と思える相手。
葉山先生の煮え切らない、悪く言うとずるい部分に少し苛立ちましたが、泉の気持ちには胸が締め付けられました。
とにかく切なくなります。

ナラタージュ
ナラタージュ
  • 発売元: 角川書店
  • 価格: ¥ 1,470
  • 発売日: 2005/02/28
  • 売上ランキング: 124746
  • おすすめ度 4.0

★9/10
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2007年07月13日

「夏の庭 - The Friends」湯本香樹実

児童文学者協会新人賞、児童文芸新人賞、ボストン・グローブ=ホーン・ブック賞他多数受賞。
世界各国でも翻訳出版され、映画や舞台にもなった児童文学。

ひとり暮らしの老人と子どもたちとの奇妙な交流が描かれている。
町外れのおじいさんが死にそうだと、ぼくと山下と河辺の3人は、おじいさんの死ぬ瞬間を見てやろうと「観察」を始める。
隠れていたはずが気が付かれて、奇妙な交流が始まる。

沢山の賞を受賞し、各国で翻訳されたのも納得。
全く接点の無いはずの老人と子供たちが、知らないうちにお互いを必要としているところがとても良い。
普段の学校や家庭では学べないことを、子供たちは老人から沢山教えてもらい、老人も子供たちから色々な事を得る。
「死」の瞬間を見てやろうという子供だからこその発想から、こんな交流が生まれるとは。
最後は目頭が熱くなります。

夏の庭―The Friends (新潮文庫)
夏の庭―The Friends (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 420
  • 発売日: 1994/03
  • 売上ランキング: 805
  • おすすめ度 4.5

★8/10
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2007年07月08日

「疾走」重松清

凄い話だと聞き、読まなくてはと思い続け、この本が私の手元に来てから読み出すまでに随分と時間がかかりました。
表紙の絵はかなり衝撃的で、見るからにこの本の気迫が伝わってくる。
読んでみると、想像以上に凄まじい話です。
落ち込みたい時に読む、というよりも、心身ともに元気があって体力があるときでないと、厳しいかもしれません。
そのくらい、読み終わった時のダメージは大きなものでした。

14歳のシュウジは広大な干拓地に住む。
そこは昔からの「浜」と新しく作った土地「沖」とに大きく分けられてしまっている。
町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、「沖」の人々は追い出される。
優秀だった兄が犯罪を起こし、父は逃げ出し、母はギャンブルで借金にまみれる。
いじめ、引きこもり、家庭内暴力、放火、借金、一家離散と散々な事柄に巻き込まれるシュウジ。
同級生で走るのが速いエリ、お調子者の徹夫、鬼ケンとアカネ、神父さま。
それぞれがそれぞれの痛みを持つ。

読了後、なんとも言えない気持ちで苦しくなりました。
感動ではない衝撃で涙が止まりません。
自分はなんて生ぬるいのかと思ってしまうくらい。
「孤独」「孤立」「孤高」。
どれもが共存しているかと思えば、一瞬で消えてしまうこともある。
けれども、一瞬で復活するものも。
こんなに踏みつけられ、堕ちていくシュウジは、最後は「孤高」になれたのではないかと思う。
中学生が背負い込むには余りに重い人生で、それでも「人間はみな公平だ」と言われる。
絶望だけはしないで欲しいという神父の言葉は、シュウジ、エリ、アカネに伝わったと信じたい。
だって、ひとりとひとりでふたりになり、ほんの少しだけ暖かくなれるのだから。
自分自身を人質にして生きていけば、怖いものなんてなにもないじゃないか。

映画化もされています。
映画『疾走』オフィシャルサイト

疾走 上 (角川文庫)
疾走 上 (角川文庫)
  • 発売元: 角川書店
  • 価格: ¥ 660
  • 発売日: 2005/05/25
  • 売上ランキング: 9058
  • おすすめ度 4.5

疾走 下 (角川文庫)
疾走 下 (角川文庫)
  • 発売元: 角川書店
  • 価格: ¥ 620
  • 発売日: 2005/05/25
  • 売上ランキング: 9267
  • おすすめ度 4.5

★9/10
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2007年07月01日

「塩狩峠」三浦綾子

信夫の半生とふじ子との出会い、結納まで。
祖母に育てられた信夫はキリスト教が嫌いだったが、死んだと思っていた母の菊も妹の待子も父の貞行もキリスト教であった。
足が悪く、病で寝たきりになってしまうふじ子もキリスト教信者となり、信夫もキリスト教を自ら知ることになる。
これはネタバレではなく本の裏表紙にも書いてあるのだが、本文最後、結納当日に札幌までの列車で信夫が自らの生命をかけて他の乗客の命を救う。

「良い」との評判を聞いて読んでみました。
キリスト教信者ではない私には、全てを理解し共感することは出来ませんでしたが、愛と信仰を貫く信夫の生涯は良い話でした。
序盤からの話し口調などから、昔のよき日本をゆったりと楽しむことが出来ました。
いつ治るか分からない病で倒れたふじ子をいつまでも待つ信夫は、とても魅力的。
今の多くの若者には考えにくいことかもしれません。
キリスト教信者をヤソと呼んで避けるのがおかしくない時代。
吉原から逃げ帰ってきたり、あんなに嫌がっていたキリスト教を多くの人々に分かってもらおうとする信夫には本当に好感が持てます。
実話に基づいた話であることを考えると、胸を打たれます。

塩狩峠 (新潮文庫)
塩狩峠 (新潮文庫)
  • 発売元: 新潮社
  • 価格: ¥ 660
  • 発売日: 1973/05
  • 売上ランキング: 3114
  • おすすめ度 4.5

★7/10
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posted by このみ。 at 22:11 | 東京 ☀ | Comment(7) | TrackBack(3) | 本を読んで| edit

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